なんと気持ちの良いラスト!

対象作品:『サンニンシマイ』劇団カタコンベ 第72回公演
鑑賞日時:2023年11月18日(土)19:00(※Bキャスト)/11月19日(日)14:00(※Aキャスト)
場所  :新潟古町えんとつシアター
上演時間:約65分

驚いた。となかいさん、何かあった? そう聞きたくなるくらい、これまでと印象が違った。
これまでのカタコンベ作品は深く自己の奥へ降りていくシーンが多かった。今回は会話中心。独白もあるけど、それも外に向っている。
聖飢魔IIが世にでた頃が舞台(後で調べたら1982年結成だった)。となかいさんが若かった頃。なぜこの頃が舞台なのか。もしかしてカタコンベができた頃?(後で調べたら1985年結成だった) ちなみに私もその頃20代。小物屋さん、喫茶店、イタ飯屋、レッツラゴー、出てくる言葉がいちいち昭和でムフフと笑ってしまう。
登場するのはサキ、ハル、アヤの三人姉妹。実はハルはすでに死んでいることが途中でわかる。サキはハルと話すことで考えをまとめる。でも、話はSFやスピリチュアルには向かわない。ハルの夢だった雑貨店、サキの夢であるカフェを合体させた店舗を、サキとアヤは計画している。設計士であるおじの空き店舗からの発想だ。(自分の夢に付き合わせることに)サキはアヤに負い目を感じているけれど、アヤにとって自分の居場所ができるのは夢のようなこと(「好きになるのは女性」と一人語るアヤ。彼女にとって会社は、社会は、昭和は、2023年よりずっと住みにくいはず)。アヤのキャラはとても興味深い。豊富な知識(視力検査のCの名前、洞窟のコウモリ、等々)、大人に気に入られ、賞を取るための作文の書き方。それらは「鎧」だったのかもしれない。
ハルは死んでるし(死因は出てこない)、父親は病気で入院してるけど(父が「治ってしまった」とつぶやいたというエピソードは胸を打つ。昔は本人へのガン告知はほとんどしなかった。だけど父は知っていたのかもしれない)、常に死がすぐ隣にあるような(心が死のほうを向いている=死にとらわれている)かつてのカタコンベ作品と比べたら、この物語はとても明るい。姉妹は明るい方を向いている。晴れている(ハルは晴と書くのだというセリフがある)。観客として、それはとてもうれしい! 
アヤの社会の教科書、その間に挟まっていた写真、カフェのデザイン図面、ハルの折る鶴、全部が白い。その意味を考える。ふと、平和の象徴とされる白いハトを連想した。祈りには白がふさわしい。ちなみに3人の衣装は色違い。
2回目の鑑賞に足を運んだ際、タイミングが合ったので、開演前にとなかいさんに話しかけてみた。「変わった」と話したら、本人はそう思ってないようで、「◯◯も三人姉妹の話だし」と(〇〇は「そう言うだろうと思った、とか、そんな感じ」だったか、「…とまあ、現れては去って行くわけで」だったか…)。そう言えばそうだった。そっか、そうだ、となかいさんは少しずつ変わってきたのだ、とらわれていたのは私のほうだ。

ラスト、サキとアヤが折鶴を持ち、そこにハルの折鶴が合わさる。
未来ある、なんとも気持ちの良いラスト。

ところで、チェーホフの「三人姉妹」とはなにか関連あるだろうか。現実を見据えて歩き出すという意味では、同じな気がする。
「現実が暗いからこそ明るい作品が見たい」なんて、書きたくもない言葉が頭に浮かんでしまった。それくらい、演劇を取り巻く環境は厳しいけれど、演劇人は小さくまとまらず、やりたいことをどんどんやってほしい。見に行くから。

(記事公開:2023年12月23日)

投稿者【市川明美】
演劇の感想書いて40年(笑)

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